2010-12-29

FAVORITE DISCS 2010

気付けば年の瀬。COUNTDOWN JAPANも始まってしまった。
わたしにとって今年は音楽の年でした。
聞くものの幅も量もグッと増えて、自分の趣味もわかってきて、すごく楽しかった。
ということで、とやかく批評できるようは耳は持っていませんが、個人的に今年よく聴いたものとか気に入ったものと、その思い入れ(笑)を、記録。

まず、アルバム。

★サカナクション「kikUUiki

今年は1年間サカナクションを追い続けましたねえ。
シンシロが出て暫くしてから聴き始めたんだとおもうけど、CDJで初めてライブ観たときに楽しすぎてどハマりして、年明けにCDと配信音源と全部買って、それから1年間ずっと聴き続けた。こんなにわかりやすくハマったのって初めてかも。

そしてこのkikUUikiは、ファンになってから初めて出たアルバムになるわけで。
製作過程等のインタビューを読んだり、目が明く藍色のSOLでの初オンエアを聴いたり、リリパのUSTを観たり、ツアーへ行ったり、「汽空域」という考え方、サカナクションのやりたいこと、全体的に観れた感じがする。

でも、純粋に音源として、各所で言われているように名盤だなあとおもえるようになってきたのは、最近のこと。なんとなくすきってだけじゃなくて、自分なりに噛み砕いて受け止めるまですごく時間がかかった、それだけ濃厚。一曲一曲、色んなアプローチで表現された汽空域の世界。サカナクションらしさの再定義。これだけ色んなことをやってもブレないのは、やはり山口一郎の詞曲がしっかりと核になっているからだろうな。
個人的にすきなのは1stのシンプルさだけど、あらゆる面で、ファンを獲得しては裏切ってくれる彼らが本当にすきだ。


★□□□「everyday is a symphony」






発売は2009年の12月だけど、個人的に2010年を象徴する一枚。
フィールドレコーディングの手法を全面に押し出して、電車の音や卒業式の様子、話し声など、普通の生活の音が使われているのに、□□□らしい洗練されたサウンドとのバランスが心地良い。

リリース記念のライブをUSTREAMで中継したことは当時衝撃でした。Twitterでの感想を会場に流したり、開演前のお客さんのコメントやメンバーの様子をすぐに編集して音楽にして流したり、ライブで水の入ったバケツを使ってフィールドレコーディング的なものを再現したり、ステージでダンサーというより役者のような人たちがパフォーマンスしていたり、兎に角すべてが新しくて、終演後も感動のツイートが流れ続けていた。UST界隈のことは詳しいわけじゃないけど、あの盛り上がり方をおもいだしても、少なくとも日本ではほぼ初めての取り組みだったんだとおもう。

それだけじゃなくて、ナタリーのインタビューの音声すら音楽にしてしまったりとか、2010年に入って4月のライブでは今度はお客さんからiPhoneユーザーを募って色んなアングルからUSTしてもらってそれを公式のサイトから観れるようにしていたり。
そういった、カジュアルさ(制作もプロモーションも)と音楽的なクオリティの高さの両立が、すごく2010年的というか、2010年代の始まりという感じがします。
わたしはきっと、このアルバムを聴くたび2010年とおもいだすんだとおもう。


★安藤裕子「JAPANESE POP」






わたしがすきなJ-POPは、安藤裕子と岡村靖幸。
逆に言うと、純粋に音楽として大好きなミュージシャンの中で、J-POPとしか呼べないものはこの二人だなあ、と、なんとなくおもっていた。
そしたらこのタイトル。本人は深い意味はないと言っていたけれど、あまりに批評的で潔くて素晴らしい。
対して中身はというと、リスナーに媚を売るようなPOPすぎるものがあるわけではなくて、あくまで安藤裕子なりのJAPANESE POPで。ゆるさが気持ち良い「健忘症」とか、彼女の魅力である独特の歌い方を変えてみてしまった「アネモネ」とか、全体的に肩の力が程良く抜けていて、大人の余裕があるけど可愛らしさも失っていない、そんな感じがすごくすきです。
そして「歩く」が名曲。インストアライブでエピソードと合わせて聴いて以降、この曲を聴く度に泣いてしまって困っている・・・。
でもバラードを中心にどの曲も良くて、結構盛り沢山の内容なんですが、全体の印象として重くならずにバランスが取れているのがすごい。やっぱり、安藤裕子はわたしにとって理想のJAPANESE POP。


★七尾旅人「billion voices




旅人さんを初めて知ったのはUSTだったはず。そしてDOMMUNEでのライブがもう素晴らしくて。ツイートを即興で歌に入れてみたり、USTを観てる人に「部屋の電気消して」と呼びかけて同じ会場にいるのとはまた違う不思議な一体感を生み出したりしていて感動した。そういう意味で、□□□と並んで個人的に2010年らしいイメージ。


そしてこのアルバムは、そういう不思議な夜の雰囲気をそのまま閉じ込めたみたい。時に激しく叫び時に静かに囁き、どこまでが計算されているのかわからないけど、その全部が音楽の喜びとして感じられて、でもちょっと淋しくなる。
一番すきなのは「どんどん季節は流れて」。上質なJ-POPという感じ。誰でも聴きやすくて、かっこつけてなくて、こういう曲が売れるといいのになあと思わざるをえない。
あと、ジャケがすごーくすきです。


★星野源「ばかのうた





これはTSUTAYAでずっと貸出中だったので12月に入ってやっと聴けて、でも予想以上にハマってしまって結局CD買いました。そんなことわたしには珍しい。

というのも、なんだか無性に歌詞カードを眺めたくなったから。天邪鬼なわたしは「歌詞が良い」って褒め方は苦手なんですが、星野さんの詞はすごくすき。

孤独だったり淋しかったり、人間の悪いところから逃げないけれどネガティブではなくて普通のこととして受け入れているところ。「くせのうた」の、「寂しいと叫ぶには 僕はあまりにくだらない」とか。「ばらばら」の、「世界はひとつじゃない  ああ  もとより  ばらばらのまま  ぼくらはひとつになれない  ああ  そのままどこかにいこう」とか。まだ29歳(今年度中に30歳に)と知ってびっくり(笑)。おじいちゃんというアダ名だったのも納得。
そして、文学的な雰囲気を持ちつつも、「糞をして」「エロいナース」「禿げた君の髪」「ひかれそう」みたいなこともさらっと歌ってしまうところ。日本語を大切にしている感じがするのに、それに固執せず英語詞もさらっと入れてしまうところ。

で、そんな、あたたかい詞と優しい声なんだけど、アレンジがひねってあってカッコイイのだ。にやりとしてしまうところが幾つか。
細野晴臣「HOSONO HOUSE」がすきな方は必聴かと。



つぎに、新人編。

世界の終わり、かまってちゃん、ねごとあたりが話題になりましたが、わたし的には、
ふくろうず!!


2nd「ごめんね」を聴いてすきになりましたが、1st「ループする」も負けずに良い!
ボーカル内田さんがすごい。一見かわいくてポップな曲が多いけれど、歌声に感じる狂気が独特で、歌唱力とはまた違う引力がものすごい。詞も、「ごめんね」の「君はすてきだ!困った顔がよく似合う」とか「すばらしい世界」の「生きるすばらしさを  誰かがまたこりずに歌ってる」とか、シンプルな言葉で時折ドキッとするフレーズが入ってきて、すき。
良い意味で「頑張ってる感」がないバンドなので、今後どれだけ続くかちょっと心配(笑)ですが、たのしみ。


あとは、一曲単位で印象的だったものを。

★環ROY「break boy in the dream」

□□□と七尾旅人との豪華なコラボ曲!
3組の相性が最高。綺麗でかっこよくて切なくて。
イントロのキラキラが桜の季節にぴったりでよく聴きました。




★SMAP「We are SMAP!」

作詞 太田光、作曲 久石譲。
兎に角、太田光の詞が素晴らしい。
「エンジンは、好奇心さ。科学でもなくて。/笑い声。歌の音。魔法のエネルギーさ。//繋ぐのは、物語。権利でもなくて。/キミの声。笑い声。無限のエネルギーさ。」
句読点の使い方、片仮名の散りばめ方、平易な言葉を使いながらも、溢れるセンス。歌詞じゃなくて、詩として成立してる。(←初めて聴いたときの感動のツイート。)
飾り過ぎない詞が、久石譲の作曲・編曲で壮大な曲になりながらも引き立っていて、感動的。
「SMAPには勿体無い」と言う人ももしかするといるかもしれないが、わたしはSMAPにしか歌えない曲だとおもう。「HEAL THE WORLD」がマイケルが歌うからこそ意味があるように、壮大なメッセージソングは歌い手を選ぶ(知名度や人気という意味で)とおもうから。
多くの人に聴かれて欲しい1曲。



★サカナクション「ホーリーダンス」

アイデンティティとは対照的なカップリング曲。
イントロからブリブリの電子音がカッコよく心地良くて、「お お、お お」と繰り返すAメロの遊び心ににやっとして、サビ・・・ん、サビ前か?「だから今を」のところの、真夜中の開放感が気持よくて、最初から最後まで大好き。
サカナクションの曲はほとんどすきですが、思い入れのある曲はシンシロまでのものが多くて。そんな中この曲は久々にわたしの好みど真ん中でした。
こういう曲がカップリングになってしまう「戦略」はちょっと淋しいけれど、きっと正解なのでしょう。どうにか「アイデンティティ(笑)」っておもった人に聴かせたいな。

★Perfume
「ナチュラルに恋して/不自然なガール」
「VOICE/575」
「ねぇ/FAKE IT」


Perfumeの今年出した3枚のシングル、カップリングも含めてすごく良かった。
キャッチーさとカッコ良さのバランスがやっと取れたという感じ。すき。
それだけ安定した人気を得たということなんだろうとおもうと、本当にうれしい。
こうなると次のアルバムが楽しみなんですが、発表はまだかしら。




ああ、すっきりした(笑)
有名なのばかりでごめんなさい。
せめてもう少し音楽用語とか知ってれば良いのだけど・・・。

来年も沢山の素敵な音楽と出逢えますように。
沢山の素敵な音楽が生まれることができますように。
素敵な音楽が沢山の人に届く年になりますように。


2010-12-12

Van Gogh

一昨日、国立新美術館で開催されている「没後120年 ゴッホ展 こうして私はゴッホになった」を観てきました。
随分前から楽しみにしていたのに、やっと。
でも本当に行ってよかった。

なんといっても、「サン=レミの療養院の庭」
精神を病んで入院していて外出できなかった頃に、荒れた庭を描いたもの。














これ、写真で見ると、わたしが普段好きになれないタイプの画なんだ。
色も多いし、ごちゃごちゃしているし。黒の使い方もすきじゃないと、一瞬おもった。
でも、間近で観たときのエネルギーがものすごくて。
植物の持っている、目には見えない生命力が画面から溢れ出している感じ。
圧倒されてちょっと涙がでた。
やっぱり生じゃないと分からない良さってあるなあと再確認できました。

あと印象に残っているものメモ。
今回なぜか、木の幹の描写に目が行きました。
普段、空と海と木の枝葉は注目して観ているんだけど。誰もが描くけど個性が出やすいから。
でも幹をちゃんと観たのははじめてかも。

「マグロンヌの地中海風景」ギュスターヴ・クールベ
  構図と色彩のバランスが、これしかないっていうくらいに落ち着いていてすきでした。空の淡い色と海の深い青色が引き立て合っていた。

「マルメロ、レモン、梨、葡萄」ゴッホ
  展覧会の説明にもあったけどゴッホの画は補色、特に黄色と青の使い方が印象的ですが、これはほぼ黄色。額縁もゴッホ本人が彩色したもので、黄色。黄色と言っても黄土色っぽいくすんだ色なので主張しすぎないのが良い。独特の筆使いが引き立っていた。

「モレのポプラ並木」アルフレッド・シスレー
  シスレーで初めてすきだと思った。手前の木の幹に光が当たって木陰ができている感じが、すごくリアルに自然の安心感を感じさせられてドキっとした。

「オンフルールの港の入口」ジョルジュ・スーラ
  スーラも苦手だとおもっていたけど、この作品は点描の使い方と色遣いでうまく奥行きが出ているのが気に入りました。

「アルルの寝室」ゴッホ
  たくさんの色を使っているのに全くうるさくないし、飾り気のない寝室なのに美しいのは、どうしてだろう。

「種まく人」ゴッホ
  浮世絵に影響を受けたと言われる大胆な構図。暗く描かれた手前の人物と、バックの大きな大きな夕日と明るいの空の対比に、わたしのすきな人やモノの根っこがある気がする。

「ある男の肖像」ゴッホ
  歪んでいるのに均整が取れていて、おじさんなのに綺麗な画で、不思議と惹かれた。

「あおむけの蟹」ゴッホ
  一見してゴッホっぽくないと感じましたがものすごくすきです。たくさんの赤と緑がとても綺麗。不安定なアングルと細かい描写と力強い色遣いで蟹が生き生きと感じられた。

「蔦の絡まる幹」ゴッホ
  印象に残っていうのは、茶色と緑の地味な色。うねる筆遣い。観る場所によって表情を変える。

「夕暮れの松の木」ゴッホ
  手前に大きく描かれた松の木の幹が、なんというか色気があってすごく惹かれた。きっとこの木を描きたくてこの絵を描いたんじゃないかなあと感じました。

「アイリス」ゴッホ
  綺麗な、ゴッホらしい黄色と青(元は紫に近かったらしい)の対比で、晩年の作というのが意外に感じました。背景の明るい黄色と塗りのシンプルさでバランスがとれているけれど、アイリス自体は枯れかけているものが混じっていたりと力強くも哀しい表情をしていて、でも全部ひっくるめた美しさを感じました。


ゴッホはいちばんすきな画家です。
すきになったきっかけは幾つかあるけど、そのうちのひとつが、富山県立近代美術館の「AIGコレクション 印象派の光  エコールドパリの夢」で観た「夫は漁に出ている」。
(サイトを観ると、今回展示されていたゴーギャンの「ブルターニュの少年と鵞鳥」がポスターに使われている。なんか既視感があったけれど再会だったんだ。)
療養所に入院している頃に描かれた、確か模写の作品だったと思うのだけど、あまりにも陰鬱なオーラを発しているのにすごく惹かれてずっと観ていた。

有名な耳を切ったエピソードもあったり、ゴッホというと精神病だとか孤独といかいうイメージが強くて、わたしもそういうところに当てはめて観がちだったけれど、今回それだけではないところもちゃんと観れた感じがした。
ミレーの模写を沢山していたり、印象的な色彩についてもきちんと学んだものであったり。他の画家に比べると独学のところが多いとはいえ、勿論勉強していないわけではないんだよね。

あと、わたしはゴッホの筆遣いがすきなのでいつもはそこばかり観ていたけれど、今回印象に残ったのは色の美しさ。美しさというより、わたし好みという感じかな(笑)。おなじ色でもグラデーションでたくさんの色が使われているけど、ひとつひとつがすごく好きなことに気付きました。


もしもこれを読んでくれた人で美術館にあまり行ったことのない人がいれば、是非行ってみて欲しいな。画家が選んだ色や作品の発するエネルギーは絶対に実物を観なければわからない。油絵だったら絵の具の塗り方によって一枚の画の中でも全然表情が変わるけれど、それは写真では決してわからない。近くで観るのと離れて観るのでは全く違う印象を受けたり。ライブに行ってこそわかる音楽の良さがあったりするのと同じだね。
もう少し空いていて静かに鑑賞することが出来るのならもっとおすすめできるのに。

来年はシュールレアリスム展があるみたい。
ダリがたくさん来るといいな。
メディア芸術祭とアーティストファイルも行こう。

2010-10-24

Visual Music Session

昨夜、音楽の生まれるところをみた。

サカナクション、USTREAMで公開レコーディング。
というニュースを聞いて喜んだわたしは失礼だったかもしれない。
彼らは100歩先を行っていた。

「Visual Music Session」

音楽からMVを生み出すのではなく、MVから音楽を生み出す。


「素敵」という言葉を煮て焼いて硬く濃く熱っぽいものにしたい。
「素敵な企画」じゃ薄っぺらい。
それくらい、企画を聞いただけで興奮しました。

メンバーと一緒に初めて、「目が明く藍色」MV監督の島田大介氏の制作した無音の「MV」を観る。
17日の企画から、島田さんの製作期間はわずか5日間。
BPM130という条件だけ与えられて、尺も決められていなかったそう。
真剣勝負だ。
可愛い外国人の女性が出てくる、モノクロ調で毒のあるスタイリッシュな映像。
すごい緊張感。
でも、そのあとのディスカッションからはまるでついていけませんでした。
当然だけど。それでも。ものすごいスピード感。
UST開始から2時間強、曲を作り始めてからは1時間半くらいかな?で4テイク。
コメントする余裕もないほど見入った。
曲について語るのはやめておこう。完成を楽しみにして。

プロの仕事を目撃したという感じ。
そして、本当の意味で「サカナクション」を知れたのかもしれない。
一郎さんが中心となって決定権を持っているのは間違いないけど、
同時に5人は対等でもあり。
全員が全員を尊敬し信頼しているのがよく見えた。

一郎さんが最後に言ったこと。

「この4人がいてサカナクションなんです。歌と言葉があってサカナクションのひとつの形もありますけど、僕が今日これをやることのひとつの目的として、こういうことができる素晴らしいメンバーが、優秀なメンバーがサカナクションにはいるということを、みなさんに知ってもらいたかったというのもありました。それを今日ちょっと示せたのではないかとおもいます。」

うん、本当に、たくさんの人に伝わったとおもう。
アルクアラウンドやアイデンティティだけを知っている人が増えて、武道館を成功させたこのタイミングでやったことにも意味がある。


この企画を聞いたときにおもったのは、
戦略も表現になると公言してきたサカナクションは、
ついに制作をも表現としてしまったのだということ。

それは現代アート。
でもあくまでもアーティストではなくミュージシャンとして。
オーディエンスもアート好きや評論家ではなく、音楽好きの普通の人。それも、5600人も。

わたしはミュージシャンじゃないからよく分からないけど、
映像から音楽を作ること、即興で音楽を作ること、
それ自体はある程度のミュージシャンならできることなんだろうな、とはおもう。
でも音源やLIVEでしか音楽に触れられないわたしたちには、その現場を観ることってすごいことなんだ。その、「業界人」と「一般人」の差をぴったり捉えてエンターテインメントにしてしまった。

一方で重要なのは、USTで公開することそれ自体が目的ではなかったこと。
これまでも色んなミュージシャンがレコーディングやリハーサルのUSTをしてきて、勿論それはそれで良かったけれど、それらとは一線を画している。

それは、Visual Music Sessionという企画の新鮮さに依るだけでなく、
リアルな制作の現場感と、コンテンツとしての完成度という、矛盾しがちなもののバランスが絶妙だったのではないかとおもいます。
最初に今日の機材の説明があったり、セッションの直前にはスタッフに「USTにトラブルがあったら演奏中でも止めてください」と伝えたりと、一郎さんは視聴者の存在、理解のしやすさを気に掛けていたし、スタッフのみなさんも、例えば映像のワイプをメンバーの顔にかぶらない場所に移動してくれたり、最大限の配慮が伝わってきた。
逆にディスカッションや演奏時は観ている側も緊張感を共有して、静かに真剣に見守っていたという感じ。
その関係性が不思議で新しかった。

新しい音楽が生まれるところと、新しい「音楽とアートとエンターテインメント」の形が生まれるところを見たんだ。
きっとサカナクションが好きだからっていうだけじゃない、2時間20分、ずっと興奮してずっと楽しくて、終わる頃には身体が熱くなっていた。

完成したものがどういう形で発表されるのか、それもまた楽しみ。
同じ取組みをまたやりたい、とも言っていたし。
サカナクションは、音楽を超えたわくわくをくれるなあ。

2010-10-15

SAKANAQUARIUM 21.1(B)-2

ひとつ前のエントリーではレポっぽくなったので、
こちらでは全体的な感想というか、ちょっと考えてみたことを。


「ライブは総合芸術」というのは一郎さんが何度か言っていて、
kikUUikiツアーのときにその通りに感じた。

オイルアートや照明の演出も、セットリストも。
ただ享楽的に踊れるだけではなく、もうひとつ上の次元で感動させる。
ただ観客が期待していることに応えて楽しませるのではなく、
観客が体験したことのない新しい音楽の喜びを提供する。

わたしはサカナクションのそんな姿勢が大好きだ。
そして、きっと今やりたいことがやれているんだろうなあと漠然と感じていた。

その、完成形にも思えたkikUUikiツアーから、武道館では更にすごいものを見せてくれた。

大きな舞台での定番の演出を使うのではなく、サカナクションらしく、一曲ごとに、もちろん全体の流れも考えてこだわっているのがわかる。
それは、身も蓋もないことを言ってしまうと予算面で出来ることが増えたということも大きいのだろうけど、
ただ豪華な演出を取って付けたのではなくて、
それくらいの規模感が等身大で合うバンドになったんだなあと感じた。

「なった」と言うと少し偉そうだけれど、確かに「kikUUiki」を経てそうなったんだとおもう。
シンシロまではイヤホンで外で聴くのにも適していたけど、このアルバムは部屋でCDで、「作品」として鑑賞するものという感じがする。
音楽知識が全くないので根拠もないのだけど。
でも実際のところ、「すごいアルバムだ」とおもうけれど再生回数は多くないのだ。
そんなアルバムだから、目が明く藍色をはじめ、ショーのような「総合芸術」の場がよく合う。

そして、サカナの曲は、すごく幅広い。…って、改めて言うのもなんですが。
リリースの関係ないワンマンは初めてになるのかな。今回は全てのアルバムから満遍なく選曲されていたのもあり、一回のライブで色んな面を見せてもらえる。
演出も自然と幅広いものになる。

そういった条件の中、武道館という会場はすごく良い相乗効果になったのではないかと。
ライブハウスだと、どうしてもステージとフロアという関係になるけれど、
武道館全体、天井まで考えられた演出になっていて、開放感と同時に一体感のある独特の雰囲気。照明を落とした演出のときとのコントラストもはっきりしていた。

武道館を武道館じゃなく感じさせられたけれど、武道館だからこそ成立した世界だったということ。
ライブハウスやフェスとは明らかに違う「サカナクションらしさ」を見せてくれたということ。
ホールとかになるとまた違うんだろうなあ。
色んな、ライブハウス以外のところで観てみたくなりました。
そして、今回の「ショー」を経て、またライブハウスに戻ったときライブがどう進化するかにも期待です。


セットリストについて。

ライブの超定番曲、フェスを含めて必ずと言っていいほど演奏されてきたナイトフィッシングイズグッドがありませんでした。
USTで語っていたところによると、これまでこの曲に頼っているところがあったけれど、次に進まなきゃいけない、フェスでも目が明く藍色をやれるようにしなければいけない、そのために作った曲なのだから、とのこと。
納得出来るけれど、そうは言っても聴きたかったというのが正直な気持ち。

一方で、二度とやらないと言った(らしい)GO TO THE FUTUREが演奏された。

 “『GO TO THE FUTURE』ってタイトル通り未来へ進む曲だから、それを繰り返し歌うという行為は、未来へ進めてる事にならない気がしてて。だから二度とやらないと言ってましたけど、武道館ライブからまた未来へ進む決意の為、やらせていただきました。”(山口一郎Twitterより引用)

やらなかった曲、やった曲、その理由は同じ所にあったよう。

アイデンティティ発売時、MUSICAのインタビューで一郎さんはこう言っている。

「きっとこれが今までのサカナクションの最後の曲になると思うんです。コーラスワークとか、ギターのカッティングとか、過去に使ってきた素材を惜しみなく使ってサカナクションらしさを再定義した曲です」

「もちろん次のアルバムに対しての切り口というか、僕達の意思表示的なシングルでもあるけど、ある意味、今までの自分達への決別だと思ってて。『アイデンティティ』は『アルクアラウンド』から作ってきた僕達の雰囲気の最後の曲だと思うんですよ」

わたしはこの話を武道館公演の直前に思い出していた。
実際、次の楽曲からどれだけ変わるか、変わらないのかは想像もつかないし、この時点で一郎さん自身も見えていなかったかもしれないとおもいます。
でも、武道館をやれるだけの人気が出たというだけでなく、
この公演で一区切りとなる、大きな意味を持つライブになるのだと感じていました。

そして、まさに集大成という言葉がふさわしい、過去のアルバムからもバランスよく選ばれたセットリスト。
それにも関わらずあえて外されたナイトフィッシングイズグッドと、あえて入れられたGO TO THE FUTURE。
集大成とは言いながらも、過去を振り返るだけでなく既に一歩踏み出しているのだ。

しかし一方では、過去の定番だったAme(B)始まりが復活。
確実に前に進みながら、頑なに過去を振り切るようなことはしない。
わたしはそんな、カッコイイけどカッコつけすぎないサカナクションがすきなのです。


個人的には、一番好きなアルバム「GO TO THE FUTURE」から、
8曲中5曲演ってくれたのが、単純にうれしいだけでなくて良さが証明されて誇らしいというか(笑)、そして好きな人が増えるだろうことがうれしかったです。

またリリース関係ないワンマンやってほしいな。


次にサカナを観るのはNew Audiogramのイベントです。
フェスよりは長めの出演時間になるそうなので、どんなセットリストになるのか想像もつかなくて楽しみ。

2010-10-13

SAKANAQUARIUM 21.1(B)-1


10/8(金) サカナクション初の武道館公演へ行ってまいりました。
5/28のZeppTokyoで発表されてから、約4ヶ月間、ずっと楽しみにしていた武道館。

武道館へ行ったのは3回目だけど、アリーナは初めて。しかもA5・・・!
スキップし出す勢いで階段を降りて、席へ向かうと、想像以上の近さ。
始まる前からテンションは最高潮へ。

スクリーンには、水槽のような映像に、コポコポという音。
そう、今日の武道館はSAKANAQUARIUMなのだ。
開演時間の19時を過ぎると、時計のカチコチいう音が重なり、緊張感が増していきます。

そして照明が落とされいよいよ開演。
オープニングの映像、水の輪廻。水槽の水が流れ、空へ行き、雲になり、雨になる・・・その流れが本当に美しくて、思い出してもうっとりしてため息が出る。
白黒で円の模様が描かれたステージの俯瞰の映像でメンバー登場。
そこから始まるのは勿論、Ame(B)。

名盤「シンシロ」の1曲目なのは勿論ですが、
わたしが初めてサカナクションのLIVEを観てハマるきっかけとなったCDJ0910の1曲目。
そして大好きな音源FISHALIVEの1曲目。
kikUUiki以降の21.1始まりも「ロックのフォーマットを壊す」ことを体現しながらオーディエンスを惹きつけていて素晴らしかったけれど、やっぱりどうしてもAme(B)始まりがすきでした。
だから本当にうれしかった。でも同じことをやるのではなく、SEのmixは新しかったです。
セットリストについては後でまた触れようかな。

とにかく、1曲目から会場を盛り上げるには最高の曲。
ここから5曲目Kleeまでノンストップ。
こんなに飛ばして大丈夫?なんて思いましたが、サカナクションはLIVE鉄板曲がありすぎるんだなと12曲目ネイティブダンサー以降の流れで再確認。
夢中で飛び跳ねていたけれど、ライトダンスでの草刈姉さんのベースソロがかっこよくて忘れられません。やっぱり華があるなあ。

そして短いMCを挟んでフクロウ、意外な選曲ににやり。
これでもかというほどの緩急の付け方(笑)。グッと引き込まれます。
ここから聴かせる系の曲が続きます。
アンダーの時の映像が印象的でした。一郎さんの歌う映像(もちろんリアルタイム)にエフェクトがかかっていて、クラゲの映像が重なって。深海で独りで歌っているような。

そして、個人的ハイライトのひとつ。シーラカンスと僕のアウトロ延々リピートからマレーシア32へ。
レーザーがこれでもかと飛び交い、武道館は一瞬でクラブに。
マレーシアがあんなにもカッコイイ曲だったとは・・・。
そこからParadise of Sunnyへ繋がるのが流石。
インストを2曲連続なんて、サカナにしかできない。いや、サカナにとっても挑戦だったのでは?
とにかく驚いて、にやけました。
(21.1は短かったんじゃないかな、ちょっとわからないけど、セトリの表記のように3曲のメドレーというより2曲やったという印象でした)

一郎さんは、カオスパッド等の機材を操作していましたが、kikUUikiツアーの時のように観客を煽るのではなく、ほとんどずっと後ろを向いていたのが印象的。
後でUSTで仰っていたことには、オイルアートを見ながらそれに合わせてエフェクトをかけていたそう。
なんて言えばいいんだろう・・・確かに、「盛り上がった」わけでもないかもしれない、
でも、あの瞬間武道館は武道館じゃなくなっていて、観客は全身で音楽を、「総合芸術」を感じていました。

そして、「まだ誰も聴いたことのない曲をやります」と、文字通りできたてほやほや、タイトルも決まっていない、歌詞もメンバーさえ当日初めて聴いたという、新曲。
Aメロ、Bメロは、シングルにしてはかなり暗いと感じました。
でも、踊れるアレンジ。まさに心地の良い違和感。
サビも、暗い一方でいつも以上にキャッチーな印象。全体的にとても好みでした。

ネイティブダンサー~アイデンティティまでの盛り上がりはすごかった。
ネイティブダンサーは緑レーザーが定番ですが、進化。
普通のレーザーはマレーシアに比べて控えめで、
中央のスクリーンに不思議な形のレーザーがうねうね動く。
サビになると、それが傑作MVのダンスの映像に重なる。
そして更に、歌詞に合わせて雪のようにレーザーが降る。すごい・・・。

そして、難しくてなかなか揃わない手拍子。
今日はしっかりと揃っていたどころか、「手拍子完璧なの聞いて!」と言わんばかりの一拍目から大きな音に、感激しました。全国からファンが集まっていることを実感した瞬間。

アイデンティティで会場の熱気は最高潮に達したところで、本編最後の曲はenough。
シンシロツアーはよく知らないので、LIVEでやるとかっこいいだろうけど難しいだろうなあとおもっていた曲・・・。
照明は落とされ、一郎さんの傍らにはベッドサイドに置くサイズの電気スタンド。
アイデンティティまでで会場を一体にさせておいて、ここで個の世界へ。
一郎さんの歌声、気持ちよく伸びてたなあ。
そして電気を消して、舞台袖へ。
この時の雰囲気は、バンドのLIVEのそれとは明らかに違ったようにおもう。
劇、ショー、ミュージカル・・・
序盤、終盤、あれだけ盛り上げておいて、あまりにも綺麗に幕を引いて去っていった。

アンコールでは、今から始めるかのように「どうもー!サカナクションでーす!」とテンション高く登場した一郎さん(笑)。
三日月サンセットで歌詞が飛んだ照れ隠しだとおもうけど、同時に素直にワンマンライブのホーム感を楽しんでいる感じがうれしかったです。
いつもはもう少し、MCも煽るときも真面目な印象だから・・・(笑)。
それから軽くメンバー紹介。結成して4年かあ・・・なんて濃密。
4年前のLIVEでは、200人ほどのキャパの会場に100人程度。今日は11000人。100倍。
観客の声が聞き取れず、スルーしかけて「・・・え?」と聞き返す一郎さん、完全にコントでした(笑)。

「二度とやらないと言っていた曲をやります」と演奏されたのはGO TO THE FUTURE。
ガツンときました。
この曲、表題曲ではあるものの、他に比べて地味なので個人的に存在感が薄かったのです。
でも、生演奏、素晴らしかった。身体の芯まで、ずっしりと重い音が入ってきました。
LIVE前と後で、一番印象が変わった曲。

そして、白波トップウォーター。一番すきな曲なので、武道館でどうしても演ってほしかった一曲。
この曲の中でも、2番のサビ前の間奏が大好きなのですが、そこで一郎さんが右手を挙げて、みんなも手を挙げてピースしてて。
それが青い逆光で照らされていたのが綺麗で幸せで泣きそうでした。
この瞬間を思い出せば大抵のことは乗り越えられる気がするよ。

ダブルアンコールは目が明く藍色。
この曲を、ラジオの前に座って初めて聴いたときの驚きはきっと忘れない。
今日のショーの最後を締めくくるに相応しい壮大な曲。
Zeppで聴いたときはなんだか戸惑ったの。
ナイトフィッシングイズグッドと違ってノリにくいなって。
でも、武道館のサイズにぴったりでした。変な言い方になるけど、武道館に似合っていました。
武道館は、よくある「売れてきたから挑戦する場所」ではなく、今のサカナクションにとってきちんと相応しい場所なのだと、確信した瞬間でした。

5人手を繋いでお辞儀をして、手を振って袖にはけて、いよいよ終わりの時間。
でも、壮大なショーは終わりもしっかりと。
ホーリーダンスのインストリミックスをBGMに、スタッフロール!
個人的には、何度も行っているMEGさんのLIVEで見ているのですが、おそらくよくある演出ではないはず。でも大好きな二組がやっているということは、何か意味があって、とてもうれしいこと。

誰も帰らず、手拍子をしてTEAM SAKANACTIONのメンバーの名前が流れるのを見ていた。
照明や映像にこだわるだけでなく、それをやる人たちの存在までしっかりと見せる。
そしてその想いが確かに観客に届いている。
なんてしあわせな空間なんだろうとおもいました。

そして最後、「AND……Many Thanks to ALL AUDIENCE!!!!」と文字が出て、オープニングでも流れたステージの俯瞰の映像に移り、それがゆっくりと客席側を向く。
観客が歓喜の声を上げるも、映し出されたのは誰もいない武道館で、すこしがっかり。
オープニングではリアルタイムの映像だったのに、今度は録画か、と。
すると、中央の席にはサカナクションのメンバー5人が笑っている。
再びの歓喜の声、そして賞賛の拍手。
次の瞬間パッと映像が切り替わり、同じアングルから満員の武道館の笑顔へ。
ずるいです(笑)。こんなハッピーエンドがありますか。いつも夜と孤独を歌ってきたのに(笑)。
11000人が一人残らず貴方たち・・・チームサカナクションの虜になったことは間違いありません。

【SET LIST】
01. Ame(B)
02. ライトダンス
03. セントレイ
04. アドベンチャー
05. Klee
06. フクロウ
07. 涙ディライト
08. アンダー
09. シーラカンスと僕
10. マレーシア32 ~ 21.1~Paradise of Sunny
11. 新曲
12. ネイティブダンサー
13. インナーワールド
14. サンプル
15. 三日月サンセット
16. アルクアラウンド
17. アイデンティティ
18. enough
<アンコール>
19. GO TO THE FUTURE
20. 白波トップウォーター
<ダブルアンコール>
21. 目が明く藍色
(エンドロール:ホーリーダンス Instrumental Remix)


長くなってしまった。全体の感想はまた改めて…

2010-09-28

音楽。光。雨。そして人。

neutralnationへ行ってきました。

お台場。快晴。暑かった。雨。寒かった。そんな、変な一日。

  SOUR
  DE DE MOUSE
  quarta330
  uhnellys
  LITE
  にせんねんもんだい
  Buffalo Daughter
  クラムボン 
  mouse on the keys
  toe
  80kidz
  DJ KENTARO
  GANG GANG DANCE



toeのことで頭がいっぱいです。


後ろのほうで聴いていたけど、グッドバイで郁子ちゃんの声が聞こえたかとおもうと、
みんなぐうっと前に押し寄せて。その高揚感が心地良くて。
背伸びして、郁子ちゃんの姿が見えた瞬間、自然と涙が。
郁子ちゃんの声は魔法。身体の芯からしあわせと切なさを呼び覚ますんだ。


そして、toe×クラムボンでreflection etarnal…
ミトさんが少し喋って、演奏を始めた瞬間、ぱらりと雨が降ったの。
そしてすぐに止んだ。
日が暮れてきて照明が映えてきた頃の一瞬の雨は、あまりにも神秘的で、
うまく言葉に出来ないけれど、特別な空間だったということだけは言える。


Nujabesさん、彼の存在は残念なことに訃報で知ったけど・・・
観てるんだなあとおもいました。その主語が、彼なのか、もっと抽象的な、神様みたいなものなのか、
自分でもよくわからないけど、、ずっと上の方から観てくれている、そんな雰囲気を感じました。


そして、ステージはよく見えなかったけれど、照明で映し出されたお客さんたちのシルエットがすごく温かくて、
名前も知らない沢山の人と一緒に音楽を、この空間を感じていられることに、また泣いてしまいました。
あの場にいた全員が、「今日来てよかったなあ」と、お腹の底から感じたとおもう。
それはきっと、言葉になる前の、自然に湧き出る感情。


綺麗な空間だったなあ・・・。
しあわせのため息がでるよ。


勿論他の出演者も良かったのだけど、toeのことを、忘れたくなかったの。


良い休日でした。